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BAROQUE

 今日は回収日だった。
 台所のシンクに置きっぱなしのざる、その中の鱗が砥いだ米粒のように光っている。僕はそれを適当な袋に詰めて家を出た。低血圧の姉はまだ起きてこない。多少音を立てたところで彼女が起きるなんてことはないのだろうけれど、僕は気を使って戸を閉めた。
 自転車を駆って坂を降りたところにある回収所にまっすぐ向かう。自動ドアが開いた瞬間に漏れ出る冷気に汗が冷やされて心地良い。坂を下る風は気持ちよかったが、クーラーのそれには勝てない。受付で鱗を手渡し現金を受け取った。
「いつもながら綺麗ね」
「ありがとうございます、姉に伝えておきます」
 回収所のおばさんは手元のサイズ表と見比べて鱗の大きさと輝きを見ているようだった。かちゃり、かちり、と鱗が分別されていく。
「最近は洗ってもくれない人が多くてね」
 僕は昨晩の姉が米砥ぎざるで鱗を洗う姿を思い出した。そんな丁寧に扱っているわけではないんですよ、とも言えず僕は複雑な表情をした。
 
 ***
 
 それまで姉の爪や鱗などは普通ゴミとして処分していた。確かに彼女の爪はしなやかで固く鋭く、鱗は油膜を引いたような淡い虹色をしていて美しかったが、姉にとっては老廃物でしかなかった。そりゃそうだ。だから僕らはなにも悪いことをしているつもりもないまま過ごし、ある日突然役所の人たちがやってきてしこたま叱られたのだった。
「だからね、お姉さんの爪や鱗にはあなたが思っているよりも何倍も価値があるわけよ」
「はあ」
 スーツをかっちりと着込んだ役所の人は懐から取り出したハンカチで額の汗を拭きながら僕を詰める。今日は特に暑い。もうそろそろクールビスを始めていてもいいものだろうに。
 曰く、彼女らのような竜の爪や鱗には宝飾や漢方、工業製品、その他幅広い分野において需要があるのだという。だからそうやってゴミみたいに捨てられると非常に困る。そういう油断した家庭のゴミ袋を漁って回収したりする質の悪い業者も現れ始める始末なのだ。たちの悪い業者が増えれば市場価格が崩壊して竜資源業界が立ち行かなくなってしまう。
 と、だいたいそんなようなことを言った。
「最近は健康食品にも使われたりしてね。ほら、あなたも見たことがあるでしょう。テレビのCMとか、」
「すみません、うちテレビないんで…」
 これ以上続けても面倒なだけだったので、適当なところで切り上げてもらった。受け取った役所のパンフレットに目をやる。そこにはこうした爪や鱗(竜由来資源というらしい)の回収場所や日付、回収できるものやできないものの説明などがつらつらと書いてあった。その名の通り資源回収ゴミみたいだな、と思って少し笑いそうになる。竜資源業界だってさ。
 
「宝飾ならまだしも、健康食品って」
 竜の名が泣くからやめてほしいんだけど、と遅い朝食を食べながら姉が言った。朝の顛末を話して、これから市のルールに従って回収してもらわないといけないね、ということは理解してくれたが、やはりその利用手段には納得がいかないようだった。
「そもそも竜の爪や鱗に延命効果なんて一切ないのにね」
 穏やかな口ぶりではあったが、表情は冷たげだった。ざくり、とスプーンがコーンフレークを掬った。
 
 姉は昔、かつての交際相手を亡くしている。病にかかり、医者にも見放されたその人をどうにか救おうと半狂乱になった彼女は全身の鱗を引きちぎり煎じて飲ませた。「竜の鱗は万病に効く」なんて話は広く出回っていたけれど、当の彼女は唾棄していたはずだった。
 そしてもちろんなんの効果もなく、そのまま死んでしまった。
 葬儀のあと姉は一晩中泣き続け、それから自室に引きこもった。物音がしなくなって見かねた僕が部屋を覗くと、彼女は真珠の海の中崩れ落ちるようにして眠っていた。竜の涙は真珠状になることをすっかり忘れていた。目を覚ました姉があっけにとられる僕を視線に捉えて、あー、どうしよっか、と言った。1週間ぶりの会話だった。
 
 結局あの涙は宝飾店に引き取ってもらった。
 それまで爪や鱗は気にせず捨てていたけれど、ゴミ袋いっぱいの真珠をゴミ捨て場に置いておくのはさすがに躊躇する。形が歪なのと大きさがまちまちだったのとでひとつひとつの値はそこまでだったが、いかんせん量が量なので結構な金額になったのだった。
 皮肉にも大金を手に入れてしまった僕たちだけれど、お金の使い方をよく知らないので生活に必要なだけ引き出して、残りは未だに手付かずのままだ。
「生きてるだけで丸儲けだ」
 帰り道で姉がへらへら笑いながら言った。冗談で言っているのか自虐を言っているのかよくわからなかったが、多分両方だろう。姉は自虐をなにか面白い冗談だと思っている節がある。僕を元気づけようと軽口を叩いたつもりらしい。
 僕もつられて笑った。あんまり笑い事ではなかった。
 
 ***
 
 回収所からスーパーをはしごする。食料品と日用品を受け取ったばかりの現金で支払ってスーパーを出ると、家を出たばかりの頃はまだ低い位置にあった太陽が真上にまで昇っていた。冷やされた体を溶かす陽射しは最初こそ穏やかなものであったが、すぐに汗が吹き出しはじめる。わずかな涼を求めるように自転車を漕いで坂を登る。ただただ暑い!
「おかえり」
 家に着き、自転車のスタンドを立てる音で僕に気付いた姉が窓から声をかける。いくらで買い取ってもらえたよ、と金額を伝えて買い物かばんを手渡した。なんとなくだけど、売れたという表現は使いたくなかった。
 竜は財宝を蓄えた番人として退治される時代を経て、宝石で身を飾る美しい狩猟対象として狩られる時代を経て、いまでは決まった日にゴミを捨てに行くように老廃物と小銭を交換するようになった。確かに使う当てのない現金を蓄えているし、鱗の輝きは燃えるようなゆらめきを見せ、美しい。
 姉はまごうことなく竜であった。
 彼女は食料品を棚にしまいながら、歴史の勉強でもしようか、と言った。袋の底からアイスの箱を見つけて嬉しそうに1本取りだす。
 
「かつて竜は人類の敵であった。しかしいまでは人類の友人として共にある。それはなぜか?」
 姉は偉そうな教授のような口調で言った。考える僕を眺めながらアイスを食べている。なんてことはない、普通のミルクバーだ。
「なぜなら竜と人間とではコミュニケーションを取ることができなかったからだ。暴力をもって対話するより他はなかった」
 むしろ対話ができないほうが都合がよかった。意思を持ち対話が可能な存在を武力で打ちのめし財宝を奪っていくなんて、まるで人間が悪者みたいじゃないか。なんでもないような顔をして、姉は続ける。
「このままだと全員殺されてしまう。困った竜は対抗策として人間と対話できるように努めた。声の周波数を人間に合わせてやったのだ」
 人間と直接交渉し、互いに譲歩しあい(そもそも始まりは人間が一方的に殴ってきたのだから竜側に譲歩するようなことなどなかったのだが)、住み分けを行った。誇り高い一部は小さな生き物に屈する訳にはいかないと抵抗したが、みんな綺麗な首飾りや高級料亭のおろし金などになった。
 竜たちは丁寧に牙を研がれ角を丸められ、資源を提供してもらう存在として人間社会に招かれた。結果として孤高なる財宝の番人は人間の豊かな暮らしの要素として組み込まれてしまった。
 そうして彼女はアイスを食べ終える。
 
「生きた鉱山みたいな扱いだね」
「わはは、言い得て妙」
 アイスの棒を受け取ってゴミ箱に捨てた。僕も自分の分のアイスを取り出して食べ始める。今日の夕飯当番は姉だから、僕が今日やる仕事は終わり。アイスの冷たさが歯を伝って頭まで響くのを感じながら、先程の授業を思い返す。
 竜には元々人間など優に蹴散らしてしまえるほどの力があった。そのために知恵を絞り徒党を組んだ人間によって巧みに狩られるようになってしまったし、また一方で力があったおかげでその後の交渉においても対等に渡り合うことができた。それならば、もし竜に力がなかったなら? 頭蓋を噛み砕く牙が、全てを薙ぎ払う尾が、多くの獣を従える魂が、もしもなかったのなら。
 
 僕は想像する。
 大きな檻の中の寝床に姉が眠っている。僕によく似た男が檻を開けて中に入る。姉は目覚めない。男が散らばった鱗を拾う。油膜を引いたような淡い虹色。転がる歪な真珠。
 男が作業を終え檻を閉める音で目を覚ました姉が、立ち去る男の背中を見ている。
 その口がなにかを囁いたような気がしたが、僕には何も聞こえなかった。

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7月9日、ここ半月くらいの出来事

気が向いたので日記を書きます。最後の日記が2月? ウケる。仕事が意味わからんくらい忙しくなってきて、しばらくPCつけることすらできない日々が続いていた。数日続けられなかったらすぐすねてやる気をなくしてしまうのでこんな感じ。去年の下旬くらいに始まった物件が今年の春先にようやく終わった。と思ったら矢継ぎ早に次の物件が来る。わかっちゃいたけどしんどいなこれ。いまの上司が現場のことに詳しい人なので現場レベルの仕上がりを要求してくるのでつらい。いや最終的にはそこまで仕上げないといけないのはわかってるんだけど、こう、もうちょっと段階を踏むというか、手心というか…。ぶっちゃけ自分と似たタイプの人なので「自分にできることを相手がなんでできないのかわからない」と思っているのが手に取るように分かる。世の中には経験の差や知識量の差というものがあるので無茶を言わないでほしい。気持ちはわかるけど。自分がマジでそのタイプなのでなにも言えないんですけど、自分と他人が違う人間であるということがわかっていない人種っているよね。でも悪い人ではないのでまあいいやって。

2月の末にiPad買ってすげえ便利だなって思っている。これまで月に買っていた漫画の半分くらいはこちらで買うようになってる。5月末に1週間位かけてキンドルが1000冊くらい漫画の1巻を9割ポイント還元しますってセールやっててそこで50冊くらい買った。なにより場所を取らないってのがいいよね。iPadでは他にもアニメを観たりしています。そういうわけなので漫画は買ってるんだけど電子書籍のほうが楽だなって思う。電子版で買い直したやつはよほど気に入ってない限り売っちまってもいいかなって。逆に「後から電子版で買い直せばいいや」って思って売った漫画が電子版出てないと気づいたりもする。鬼滅の刃は相変わらず最高。毎週最高を更新している。世間の知名度も上がりつつあるようで安泰。”売れ”、来るぞこれは…。左門くんはサモナーが完結してしまったの地味にショック。また帰ってきてほしい。ハイキュー!! と僕のヒーローアカデミアをまとめ読みした。大ヒットか打ち切りのどちらかしかないスポーツ漫画で大ヒットを打っただけあってテンポよく進んでキャラクターも覚えやすく感情移入ができウオオってなる。あとアニメの主題歌がロックバンドというところもいい。僕のヒーローアカデミアは次期看板と言われるだけあってアツい少年漫画をしていてかっこいい。オタクが嫌味なく成り上がる漫画はいいよね。あとアニメの主題歌がロックバンドというところもいい。あとは背すじをピン!と〜鹿高競技ダンス部へようこそ〜もめちゃくちゃ読みたいんだよなー。こないだジャンプ+で試し読みをしてまんまとハマってしまった。新連載のシューダン! もとても良い…。BLAME! の映画観た。通常版と東亜重音アトモスとNetflixで観た。自分がBLAME! の劇場版に対して期待していたレベルを軽くクリアしていて満足しています。強くてかっこいい霧亥と重力子放射線射出装置、かわいいヒロインたちと気持ち悪い駆除系など、実際に動いている姿を見ると感動してしまった。駆除系マジ速い! 速くてキモい! づるはめちゃくちゃかわいくなっていて面くらったけど、あとからいろんなインタビューを読み返して、確かに最近のクワガタのタッチで描き直したらこうなるよな…、と納得しました。自分は生まれ変わったらシボさんになりてえ。コトブキヤから出るらしいフィギュアは買います。

5月にM3とふたば学園祭に行った。去年はコミティアに行けたので今年もどこかへ行ってやろうと考えてこのふたつ。GWはイベントが重なっているのでどこに行ってどこを諦めるかという取捨選択に迷う。ボーマスも一度行きたい。今年は行けなかったけどまたコミティアも行きたい。M3、結構いろいろ買ったけどいちばん気に入っているのはKanata laboかな。うるさいボーカロイドはサイコー! ふたば学園祭はおじさんの文化祭って感じでめちゃくちゃ楽しかった。なんでこんなもの売ってるの…みたいなものが多くて、作れもしないのにガレージキットを買ったりした。あと散々回るゴミ回るゴミって騒いで俺も買った俺もほしいみたいなレスがあったわりに思ったよりハンドスピナー回してる人いなかった。やっぱり回るゴミだから誰も買わないのか。関東滞在中はずっと弟の家に泊まってたけど至れり尽くせりだった。弟は関東に就職するらしいので今後もお世話になると思う。弟の就職が決まってめでたい。就職活動直前に東方の同人誌を初めて作る! みたいなこと言っててコイツ正気かよって思ってたけどコピー本だけど完成して8割くらいハケたって言うし就職活動も無事に終えるしですげえなって。就職活動というと自分と仲良くしてくれる数少ない後輩も終えたようで安心。こないだ遊んでもらったんですけど、カラオケ屋に漫画とアルコールを持ち込んで歌いながら飲みながら読みながら過ごすの軽率に楽しくてよかった。人とカラオケするのは最高。最近あった楽しかったことはこれくらい。あとは全部仕事してました。社会に紛れ込んでいる。世間は自分のことをもっと褒めてほしい。

<追記>
そういえばこの期間、サカエスプリングにも行った。3年連続の参加。今年も2日間出た。シヴィリアンが来るので今年は(今年も)絶対行くぞ! って思ってたけど、この1年で知らないバンド一気に増えたな…と直前まで複雑な気持ちになっていた。まあ実際はそんなこと全然気にならず観たいバンド観て知らんバンドを知っていつも通り楽しんで過ごせたのでよかったです。毎年観ているカフカやバズマザーズを観たりメメント森を初めて観たりシヴィリアンで感極まったり、インターネットのお友達と練り歩いたり空いた時間に居酒屋で飲んだりカラオケしたり終わったあと鳥貴族で反省会したりしたのが特によかった。人とカラオケするのは最高(2)。また来年も会おうぜ。

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2月10日

(最近(これを書いているのは2月下旬のことです)忙しすぎてその日の内どころかその週の内にすら日記が書けていなくて、かろうじてその日にポツポツとしたpostを手がかりに日記を書いている始末です。なのでこの日なんか相当打ちひしがれているようなんですけど、なんでこんなつらい目に遭っているのか全然覚えていないです)
なんかつらい目に遭ったので動物園に行くことを決意しました。明日行きます。なんだったかなあ、ミーティングで詰められたとかだったかなあ…なに言われたのかあんまり覚えてないけど…。睡眠不足で情緒がぶっ壊れてて泣きべそかきそうだったのはなんとなく覚えているぞ。でも詰められるようなこと言われた覚えはなくて、威圧的な言い方にならないように気を遣われている! と思って申し訳なくて泣きそうになってたんだよな。アッなんとなく思い出してきたかもしれない。そんな状態だったので久しぶりに2時間で上がらせてもらって漫画買いに行きました。先日予約した青春兵器ナンバーワンの回収と何冊か取り寄せやら予約やらをしたぞ。虹裏で最近立っている3つのワードを出してそれに該当する漫画を挙げるというスレでメモしたやつをたくさん注文しようとしたんだけど、結構絶版や問屋取り寄せやらになってしまった。ちなみに注文したのはキラリティ、Latin、100-HANDRED-です。届くのが楽しみ。予約はストレンジプラス、世界八番目の不思議と13月のゆうれいの新刊です。こっちも楽しみ。そして明日は動物園行くぞ!

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2月8日

なにが水曜日だ! 自分は残業だよ!! この頃は後輩の面倒を見ている。なんでこんな下っ端の生き物に新人教育させようと思うの…まだ自分の方が教育されたいぐらいだよ…、と思ってるけどやれって言われたからやってるよ。後輩はそれまで違うチームでやっていたから自分が1から説明しないといけないところが出てくるだけど、その説明をしているときにもうすごく申し訳なさで家に帰りたくなるよね。家に帰りたくなるのはいつものことだったね。後輩に比較的簡単な作業を渡してやってもらってチェックするんだけど、人にやってもらってチェックするだけなの、ちょう楽!! だいたい自分でやるときだって自己チェックしないといけないんだし、すでに人の目が通っていてある程度整っているものを見るの本当に楽だよ! それまで先輩から仕事もらってやってヘナチョコな図面を提出するたびに「こんなクソ図面提出するの申し訳ない…自分なんかが書くよりも先輩に書いてもらった方が早くて正確なのでは…」という気持ちでいたけどそんなこと全然なかったわ! 自分で書かないでもいいだけで十分楽だこれ! あと純粋に自分よりミスが少ない! これ自分いらねえんじゃねえの!? という感じです。せいぜいナメられないようにがんばりまーす。あとミスも極力減らします…はい…。

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2月9日

もー忙しくてかなわんね。けものフレンズ5話観ました。性格の違うフレンズたちが一緒に協力し合う美しさいい…。神経質すぎても猪突猛進すぎても誰も責めたりしない優しい世界…。むしろそんな性格を欠点だと思っているのは本人だけで、他の人から見てみれば十分長所だということに気づかせてくれる。お互いの足りないところをお互いの得意なことでカバーしあうの本当にいい…。今週もいいけものフレンズでした。仕事がんばろう。夕飯に味噌煮込みうどんを食べたんだけど、玉子をふたつ入れてもらったら幸福度が3倍くらいになったのでおすすめです。

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